『注文の多い料理店』
Text4:読み(全文ひらがな・新仮名遣い)のデータ

【じょ】

 わたしたちは、こおりざとうをほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおったかぜをたべ、ももいろのうつくしいあさのにっこうをのむことができます。
 またわたくしは、はたけやもりのなかで、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどやらしゃや、ほうせきいりのきものに、かわっているのをたびたびみました。
 わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
 これらのわたくしのおはなしは、みんなはやしやのはらやてつどうせんろやらで、にじやつきあかりからもらってきたのです。
 ほんとうに、かしわばやしのあおいゆうがたを、ひとりでとおりかかったり、じゅういちがつのやまのかぜのなかに、ふるえながらたったりしますと、もうどうしてもこんなきがしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおりかいたまでです。
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりのいくきれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。
  たいしょうじゅうにねんじゅうにがつはつか  みやざわ けんじ