『注文の多い料理店』
Text6:読みを〈行〉単位で区切った(改行した)データ


【じょ】

わたしたちは、こおりざとうをほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおったかぜをたべ、ももいろのうつくしいあさのにっこうをのむことができます。
またわたくしは、はたけやもりのなかで、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどやらしゃや、ほうせきいりのきものに、かわっているのをたびたびみました。
わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんなはやしやのはらやてつどうせんろやらで、にじやつきあかりからもらってきたのです。
ほんとうに、かしわばやしのあおいゆうがたを、ひとりでとおりかかったり、じゅういちがつのやまのかぜのなかに、ふるえながらたったりしますと、もうどうしてもこんなきがしてしかたないのです。
ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおりかいたまでです。
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。
なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりのいくきれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。
たいしょうじゅうにねんじゅうにがつはつかみやざわけんじ