『注文の多い料理店』
Text4:読み(全文ひらがな・新仮名遣い)のデータ

【かしわばやしのよる】

 せいさくは、さあひぐれだぞ、ひぐれだぞといいながら、ひえのねもとにせっせとつちをかけていました。
 そのときはもう、あかがねづくりのおひさまが、みなみのやますそのぐんじょういろをしたとこにおちて、のはらはへんにさびしくなり、しらかばのみきなどもなにかこなをふいているようでした。
 いきなり、むこうのかしわばやしのほうから、まるでちょうしはずれのとほうもないへんなこえで、
「うこんしゃっぽのかんからかんのかあん。」とどなるのがきこえました。
 せいさくはびっくりしてかおいろをかえ、くわをなげすてて、あしおとをたてないように、そっとそっちへはしっていきました。
 ちょうどかしわばやしのまえまできたとき、せいさくはふいに、うしろからえりくびをつかれました。
 びっくりしてふりむいてみますと、あかいとるこぼうをかぶり、ねずみいろのへんなだぶだぶのきものをきて、くつをはいたむやみにせいのたかいめのするどいえかきが、ぷんぷんおこってたっていました。
「なんというざまをしてあるくんだ。まるではうようなあんばいだ。ねずみのようだ。どうだ、べんかいのことばがあるか。」
 せいさくはもちろんべんかいのことばなどはありませんでしたし、めんどうくさくなったらけんかしてやろうとおもって、いきなりそらをむいてのどいっぱい、
「あかいしゃっぽのかんからかんのかあん。」とどなりました。するとそのせたかのえかきは、にわかにせいさくのくびすじをはなして、まるでほえるようなこえでわらいだしました。そのおとははやしにこんこんひびいたのです。
「うまい、じつにうまい。どうです、すこしはやしのなかをあるこうじゃありませんか。そうそう、どちらもまだあいさつをわすれていた。ぼくからさきにやろう。いいか、いやこんばんわ、のはらにはちいさくきったかげぼうしがばらまきですね、と。ぼくのあいさつはこうだ。わかるかい。こんどはきみだよ。えへん、えへん。」といいながらえかきはまたきゅうにいじわるいかおつきになって、ななめにうえのほうからけいべつしたようにせいさくをみおろしました。
 せいさくはすっかりどぎまぎしましたが、ちょうどゆうがたでおなかがすいて、くもがだんごのようにみえていましたからあわてて、
「えっ、こんばんわ。よいおばんでございます。えっ。おそらはこれからぎんのきなこでまぶされます。ごめんなさい。」
 といいました。
 ところがえかきはもうすっかりよろこんで、てをぱちぱちたたいて、それからはねあがっていいました。
「おいきみ、いこう。はやしへいこう。おれはかしわのきだいおうのおきゃくさまになってきているんだ。おもしろいものをみせてやるぞ。」
 えかきはにわかにまじめになって、あかだのしろだのぐちゃぐちゃついたきたないえのぐばこをかついで、さっさとはやしのなかにはいりました。そこでせいさくも、くわをもたないでてがひまなので、ぶらぶらふってついていきました。
 はやしのなかはあさぎいろで、にっけいのようなにおいがいっぱいでした。ところがいりぐちからさんぼんめのわかいかしわのきは、ちょうどかたあしをあげておどりのまねをはじめるところでしたがふたりのきたのをみてまるでびっくりして、それからひどくはずかしがって、あげたかたあしのひざを、まがわるそうにべろべろなめながら、よこめでじっとふたりのとおりすぎるのをみていました。ことにせいさくがとおりすぎるときは、ちょっとあざわらいました。せいさくはどうもしかたないというようなきがしてだまってえかきについていきました。
 ところがどうも、どのきもえかきにはきげんのいいかおをしますが、せいさくにはいやなかおをみせるのでした。
 いっぱんのごつごつしたかしわのきが、せいさくのとおるとき、うすくらがりに、いきなりじぶんのあしをつきだして、つまづかせようとしましたがせいさくは、
「よっとしょ。」といいながらそれをはねこえました。
 えかきは、
「どうかしたかい。」といってちょっとふりむきましたが、またすぐむこうをむいてどんどんあるいていきました。
 ちょうどそのときかぜがきましたので、はやしじゅうのかしわのきはいっしょに、
「せらせらせらせいさく、せらせらせらばあ。」とうすきみのわるいこえをだしてせいさくをおどそうとしました。
 ところがせいさくはかえってじぶんでくちをすてきにおおきくしてよこのほうへまげて
「へらへらへらせいさく、へらへらへら、ばばあ。」とどなりつけましたので、かしわのきはみんなどぎもをぬかれてしいんとなってしまいました。えかきはあっはは、あっははとびっこのようなわらいかたをしました。
 そしてふたりはずうっときのあいだをとおって、かしわのきだいおうのところにきました。
 だいおうはだいしょうとりまぜてじゅうくほんのてと、いっぽんのふといあしとをもっておりました。まわりにはしっかりしたけらいのかしわどもが、まじめにたくさんがんばっています。
 えかきは、えのぐばこをかたんとおろしました。するとだいおうはまがったこしをのばして、ひくいこえでえかきにいいました。
「もうおかえりかの。まってましたじゃ。そちらはあたらしいきゃくじんじゃな。が、そのひとはよしなされ。ぜんかものじゃぞ。ぜんかくじゅうはっぱんじゃぞ。」
 せいさくがおこってどなりました。
「うそをつけ、ぜんかものだと。おらしょうじきだぞ。」
 だいおうもごつごつのむねをはっておこりました。
「なにを。しょうこはちゃんとあるじゃ。またちょうめんにものっとるじゃ。きさまのわるいおののあとのついたくじゅうはちのあしさきがいまでもこのはやしのなかにちゃんとのこっているじゃ。」
「あっはっは。おかしなはなしだ。くじゅうはちのあしさきといふのは、くじゅうはちのきりかぶだろう。それがどうしたというんだ。おれはちゃんと、やまぬしのとうすけにさけをにしょうかってあるんだ。」
「そんならおれにはなぜさけをかわんか。」
「かういわれがない」
「いや、ある、たくさんある。かえ」
「かういわれがない」
 えかきはかおをしかめて、しょんぼりたってこのけんかをきいていましたがこのとき、にわかにはやしのきのあいだから、ひがしのほうをゆびさしてさけびました。
「おいおい、けんかはよせ。まんまるいたいしょうにわらわれるぞ。」
 みるとひがしのとっぷりとしたあおいさんみゃくのうえに、おおきなやさしいももいろのつきがのぼったのでした。おつきさまのちかくはうすいみどりいろになって、かしわのわかいきはみな、まるでとびあがるようにりょうてをそっちへだしてさけびました。
「おつきさん、おつきさん、おっつきさん、
 ついおみそれして すみません
 あんまりおなりが ちがうので
 ついおみそれして すみません。」
 かしわのきだいおうもしろいひげをひねって、しばらくうむうむといいながら、じっとおつきさまをながめてから、しずかにうたいだしました。
「こよいあなたは ときいろの
 むかしのきもの つけなさる
 かしわばやしの このよいは
 なつのおどりの だいさんや

 やがてあなたは みずいろの
 きょうのきものを つけなさる
 かしわばやしの よろこびは
 あなたのそらに かかるまま。」
 えかきがよろこんでてをたたきました。
「うまいうまい。よしよし。なつのおどりのだいさんや。みんなじゅんじゅんにここにでてうたうんだ。じぶんのもんくでじぶんのふしでうたうんだ。いっとうしょうからきゅうとうしょうまではぼくがおおなきめたるをかいて、あしたえだにぶらさげてやる。」
 せいさくもすっかりうかれていいました。
「さあこい。へたなほうのいっとうからきゅうとうまでは、あしたおれがすぽんときって、こわいとこへつれてってやるぞ。」
 するとかしわのきだいおうがおこりました。
「なにをいうか。ぶれいもの。」
「なにがぶれいだ。もうくほんきるだけは、とうにやまぬしのとうすけにさけをかってあるんだ。」
「そんならおれにはなぜかわんか。」
「かういわれがない。」
「いやある、たくさんある。」
「ない。」
 えかきがかおをしかめててをせわしくふっていいました。
「またはじまった。まあぼくがいいようにするからうたをはじめよう。だんだんほしもでてきた。いいか、ぼくがうたうよ。しょうひんのうただよ。
 いっとうしょうは はくきんめたる
 にとうしょうは きんいろめたる
 さんとうしょうは すいぎんめたる
 よんとうしょうは にっけるめたる
 ごとうしょうは とたんのめたる
 ろくとうしょうは にせがねめたる
 しちとうしょうは なまりのめたる
 はっとうしょうは ぶりきのめたる
 きゅうとうしょうは まっちのめたる
 じゅっとうしょうからひゃくとうしょうまで
 あるやらないやらわからぬめたる。」
 かしわのきだいおうがきげんをなおしてわははわははとわらいました。
 かしわのきどもはだいおうをしょうめんにおおきなわをつくりました。
 おつきさまは、いまちょうど、みずいろのきものととりかえたところでしたから、そこらはあさいみずのそこのよう、きのかげはうすくあみになってちにおちました。
 えかきは、あかいしゃっぽもゆらゆらもえてみえ、まっすぐにたっててちょうをもちえんぴつをなめました。
「さあ、はやくはじめるんだ。はやいのはてんがいいよ。」
 そこでちいさなかしわのきが、いっぽんひょいっとわのなかからとびだしてだいおうにれいをしました。
 つきのあかりがぱっとあおくなりました。
「おまえのうたはだいはなんだ。」えかきはもっともらしくかおをしかめていいました。
「うまとうさです。」
「よし、はじめ、」えかきはてちょうにかいていいました。
「うさぎのみみはなが…。」
「ちょっとまった。」えかきはとめました。「えんぴつがおれたんだ。ちょっとけずるうちまってくれ。」
 そしてえかきはじぶんのみぎあしのくつをぬいでその中にえんぴつをけずりはじめました。かしわのきは、とおくからみなかんしんして、ひそひそはなしあいながらみておりました。そこでだいおうもとうとういいました。
「いや、きゃくじん、ありがとう。はやしをきたなくせまいとの、そのおこころざしはじつにかたじけない。」
 ところがえかきはへいきで、
「いいえ、あとでこのけずりくずですをつくりますからな。」
 とへんじしたものですからさすがのだいおうも、すこしぐあいがわるそうによこをむき、かしわのきもみなきょうをさまし、つきのあかりもなんだかしろっぽくなりました。
 ところがえかきは、けずるのがすんでたちあがり、ゆかいそうに、
「さあ、はじめてくれ。」といいました。
 かしわはざわめき、げっこうもあおくすきとおり、だいおうもきげんをなおしてふんふんといいました。
 わかいきはむねをはってあたらしくうたいました。
「うさぎのみみはながいけど
 うまのみみよりながくない。」
「わあ、うまいうまい。ああはは、ああはは。」みんなはわらったりはやしたりしました。
「いっとうしょう、はっきんめたる。」とえかきがてちょうにつけながらたかくさけびました。
「ぼくのはきつねのうたです。」
 またいっぽんのわかいかしわのきがでてきました。げっこうはすこしみどりいろになりました。
「よろしいはじめっ。」
「きつね、こんこん、きつねのこ、
 つきよにしっぽがもえだした。」
「わあ、うまいうまい。わっはは、わっはは。」
「だいにとうしょう、きんいろめたる。」
「こんどはぼくやります。ぼくのはねこのうたです。」
「よろしいはじめっ。」
「やまねこ、にゃあご、ごろごろ
 さとねこ、たつこ、ごろごろ。」
「わあ、うまいうまい。わっはは、わっはは。」
「だいさんとうしょう、すいぎんめたる。おい、みんな、おおきいやつもでるんだよ。どうしてそんなにぐずぐずしてるんだ。」えかきがすこしいじわるいかおつきをしました。
「わたしのはくるみのきのうたです。」
 すこしおおきなかしわのきがはずかしそうにでてきました。
「よろしい、みんなしずかにするんだ。」
 かしわのきはうたいました。
「くるみはみどりのきんいろ、な、
 かぜにふかれて  すいすいすい、
 くるみはみどりのてんぐのおうぎ、
 かぜにふかれて  ばらんばらんばらん、
 くるみはみどりのきんいろ、な、
 かぜにふかれて  さんさんさん。」
「いいてのーるだねえ、うまいねえ、わあわあ。」
「だいしとうしょう、にっけるめたる。」
「ぼくのはさるのこしかけです。」
「よし、はじめ。」
 かしわのきはてをこしにあてました。
「こざる、こざる、
 おまえのこしかけぬれてるぞ、
 きり、ぽっしゃん ぽっしゃん ぽっしゃん、
 おまえのこしかけくされるぞ。」
「いいてのーるだねえ、いいてのーるだねえ、うまいねえ、うまいねえ、わあわあ。」
「だいごとうしょう、とたんのめたる。」
「わたしのはしゃっぽのうたです。」それはあのいりぐちからさんばんめのきでした。
「よろしい。はじめ。」
「うこんしゃっぽのかんからかんのかあん
 あかいしゃっぽのかんからかんのかあん。」
「うまいうまい。すてきだ。わあわあ。」
「だいろくとうしょう、にせがねめたる。」
 このときまで、しかたなくをとなしくきいていたせいさくが、いきなりさけびだしました。
「なんだ、このうたにせものだぞ。さっきひとのうたったのまねしたんだぞ。」
「だまれ、ぶれいもの、そのほうなどのくちをだすところでない。」かしわのきだいおうがぶりぶりしてどなりました。
「なんだと、にせものだからにせものといったんだ。なまいきいうと、あしたおのをもってきて、かたっぱしからきってしまうぞ。」
「なにを、こしゃくな。そのほうなどのぶんざいでない。」
「ばかをいえ、おれはあした、やまぬしのとうすけにちゃんとにしょうさけをかってくるんだ」
「そんならなぜおれにかわんか。」
「かういわれがない。」
「かえ。」
「いはれがない。」
「よせ、よせ、にせものだからにせがねのめたるをやるんだ。あんまりそうけんかするなよ。さあ、そのつぎはどうだ。でるんだでるんだ。」
 おつきさまのひかりがあおくすきとおってそこらはみずうみのそこのようになりました。
「わたしのはせいさくのうたです。」
 またひとりのわかいがんじょうそうなかしわのきがでました。
「なんだと、」せいさくがまえへでてなぐりつけようとしましたらえかきがとめました。
「まあ、まちたまえ。きみのうただってわるぐちともかぎらない。よろしい。はじめ。」かしわのきはあしをぐらぐらしながらうたいました。
「せいさくは、いっとうそつのふくをきて
 のはらにいって、ぶどうをたくさんとってきた。
 とこうだ。だれかあとをつづけてくれ。」
「ほう、ほう。」かしわのきはみんなあらしのように、せいさくをひやかしてさけびました。
「だいしちとうしょう、なまりのめたる。」
「わたしがあとをつけます。」さっきのきのとなりからすぐまたいっぽんのかしわのきがとびだしました。
「よろしい、はじめ。」
 かしわのきはちらっとせいさくのほうをみて、ちょっとばかにするようにわらいましたが、すぐにまじめになってうたいました。
「せいさくは、ぶどうをみんなしぼりあげ
 さとうをいれて
 びんにたくさんつめこんだ。
  おい、だれかあとをつづけてくれ。」
「ほっほう、ほっほう、ほっほう、」かしわのきどもはかぜのようなへんなこえをだしてせいさくをひやかしました。
 せいさくはもうとびだしてみんなかたっぱしからぶんなぐってやりたくてむずむずしましたが、えかきがちゃんとまえにたちふさがっていますので、どうしてもでられませんでした。
「だいはっとう、ぶりきのめたる。」
「わたしがつぎをやります。」さっきのとなりから、またいっぽんのかしわのきがとびだしました。
「よし、はじめっ。」
「せいさくが なやにしまったぶどうしゅは
 じゅんじょただしく
 みんなはじけてなくなった。」
「わっはっはっは、わっはっはっは、ほっほう、ほっほう、ほっほう。がやがやがや…。」
「やかましい。きさまら、なんだってひとのさけのことなど、おぼえてやがるんだ。」せいさくがとびだそうとしましたら、えかきにしっかりつかまりました。
「だいくとうしょう。まっちのめたる。さあ、つぎだ、つぎだ、でるんだよ。どしどしでるんだ。」
 ところがみんなは、もうしんとしてしまって、ひとりもでるものがありませんでした。
「これはいかん。でろ、でろ、みんなでないといかん。でろ。」えかきはどなりましたが、もうどうしてもたれもでませんでした。
 しかたなくえかきは、
「こんどはめたるのうんといいやつをだすぞ。はやくでろ。」といいましたら、かしわのきどもははじめてざわっとしました。
 そのときはやしのおくのほうで、さらさらさらさらおとがして、それから、
「のろづきおほん、のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎのおほん、
 おほん、おほん、」とたくさんのふくろうどもが、おつきさまのあかりにあおじろくはねをひるがえしながら、するするするするでてきて、かしわのきのあたまのうえやてのうえ、かたやむねにいちめんにとまりました。
 りっぱなきんもーるをつけたふくろうのたいしょうが、じょうずにおともたてないでとんできて、かしわのきだいおうのまえにでました。そのまっかなめのくまが、じつにきたいにみえました。よほどとしよりらしいのでした。
「こんばんわ、だいおうどの、またこうきのきゃくじんがた、こんばんはちょうどわれわれのほうでも、とびかたとつかみさきじゅつとのだいしけんであったのじゃが、ただいまやっとおわりましたじゃ。ついてはこれかられんごうで、だいらんぶかいをはじめてはどうじゃろう。あまりにもたえなるうたのしらべが、われらのまどいのなかにまでひびいてきたによって、このようにまかりでましたのじゃ。」
「たえなるうたのしらべだと、ちくしょう。」せいさくがさけびました。
 かしわのきだいおうがきこえないふりをしておおきくうなづきました。
「よろしうござる。しごくけっこうでござろう。いざ、さっそくとりはじめるといたそうか。」
「されば、」ふくろうのたいしょうはみんなのほうにむいてまるでくろさとうのようなあまったるいこえでうたいました。
「からすかんざえもんは
 くろいあたまをくうらりくらり、
 とんびとうざえもんは
 あぶらいっしょうでとうろりとろり、
 そのくらやみはふくろふの
 いさみにいさむもののふが
 みみずをつかむときなるぞ
 ねとりをおそうときなるぞ。」
 ふくろふどもはもうみんなばかのようになってどなりました。
「のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎおほん、
 おほん、おほん。」
 かしわのきだいおうがまゆひそめていいました。
「どうもきみたちのうたはかとうじゃ。くんしのきくべきものではない。」ふくろうのたいしょうはへんなかおをしてしまいました。するとあかとしろのじゅをかけたふくろうのふくかんがわらっていいました。
「まあ、こんやはあんまりおこらないようにいたしましょう。うたもこんどはじょうとうのをやりますから。みんないっしょにおどりましょう。さあきのほうもとりのほうもよういいいか。
 おつきさんおつきさん まんまるまるるるん
 おほしさんおほしさん ぴかりぴりるるん
 かしわはかんかの   かんからからららん
 ふくろはのろづき   おっほほほほほほん。」
 かしわのきはりょうてをあげてそりかえったり、あたまやあしをまるでてんじょうになげあげるようにしたり、いっしょうけんめいおどりました。それにあわせてふくろうどもは、さっさっとぎんいろのはねを、ひらいたりとじたりしました。じつにそれがうまくあったのでした。つきのひかりはしんじゅのように、すこしおぼろになり、かしわのきだいおうもよろこんですぐうたいました。
「あめはざあざあ ざっざざざざざあ
 かぜはどうどう どっどどどどどう
 あられぱらぱらぱらぱらったたあ
 あめはざあざあ ざっざざざざざあ」
「あっだめだ、きりがおちてきた。」とふくろうのふくかんがたかくさけびました。
 なるほどつきはもうあおじろいきりにかくされてしまってぼおっとまるくみえるだけ、そのきりはまるでやのようにはやしのなかにおりてくるのでした。
 かしわのきはみんなどをうしなって、かたあしをあげたりりょうてをそっちへのばしたり、めをつりあげたりしたままかせきしたようにつったってしまいました。
 つめたいきりがさっとせいさくのかおにかかりました。えかきはもうどこへいったかあかいしゃっぽだけがほうりだしてあって、じぶんはかげもかたちもありませんでした。
 きりのなかをとびじゅつのまだできていないふくろうの、ばたばたにげていくおとがしました。
 せいさくはそこではやしをでました。かしわのきはみんなおどりのままのかたちでざんねんそうによこめでせいさくをみおくりました。
 はやしをでてからそらをみますと、さっきまでおつきさまのあったあたりはやっとぼんやりあかるくて、そこをくろいいぬのようなかたちのくもがかけていき、はやしのずうっとむこうのぬまもりのあたりから、
「あかいしゃっぽのかんからかんのかあん。」とえかきがちからいっぱいさけんでいるこえがかすかにきこえました。