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あゆみを総括する

―『戦後児童文学の50年』ほか―

 このほど、刊行が待たれていた『戦後児童文学の50年』(九六年八月 文溪堂 三八〇〇円)が出た。日本児童文学者協会の五〇年史として編まれたものだが、単に協会のあゆみをまとめるにとどまらず、書名にあるとおり戦後児童文学全体を俯瞰する内容になっている。第一部は戦後児童文学を〈総括〉する論文・評論、第二部は座談会と個別の会員の〈証言〉から構成されている。「編集を終えて」(藤田のぼる)によると、「第1部で戦後児童文学の流れを総括し、2部で児童文学運動という視点からこれまでとこれからを考える」ことを意図したという。「戦後児童文学年表」ほかの資料も充実。戦後五〇年をむかえて戦後児童文学を顧みるさまざまな企画や出版物が相次いだ中で、出色のできといえよう。
 ただ、本書中では〈これまで〉について語られることは多かったものの、〈これから〉について語られることが少なかったのではないか。冒頭の「戦後児童文学の50年を概観する」(鳥越信)では、第二の〈冬の時代〉の到来を警告。本が売れるための手だてとして外的要因のみを問題にするのではなく、「子どもの本にかかわるすべての人たちが、子どもに支持されるすぐれた児童文学、本当に面白くて無条件に楽しみと感動を与える児童文学を、どうすれば生み出すことができるのか、真剣に議論すること」を提唱している。せっかく冒頭にこのような問題が提起されながら、全体としては掘り下げが足りなかったように思う。
 いま、子どもの数が減少を続け、子どもの読書ばなれがますます進行している。加えて、消費税率の引き上げ・出版物の再販制度の見直し、マルチメディアと著作権の調整など、児童文学をめぐる外的条件は一段と混迷を深めている。児童文学は存立を脅かされる危機に直面しているといってよい。この書でもこうした状況にもう少し危機感をもつべきなのではないかという印象を受けた。
 宮崎駿『出発点[1979〜1996]』(九六年七月 徳間書店 二七〇〇円)は、これまで筆者が書いてきたエッセイ・対談・企画書・演出覚書・講演記録などを集めたもの。収録されたそれぞれの文の執筆時期や性格が異なっているため、それなりに臨場感は感じられるものの、まとまりに欠けるきらいがある。しかし、ひとつひとつの文の内容は33年間の長きにわたって優れた仕事を世に送り出してきた宮崎の眼から見たその時々の証言である。それだけに、丹念に本書を読み込めば、日本のアニメーション全体について概観し総括する上で重要な資料となるだろう。また、本書中に散見される児童書に関連する記述を拾っていくと、宮崎が現代児童文学の並々ならぬ読み手でもあることがわかる。
 『日本の漫画300年』(九六年七月 川崎市民ミュージアム)は企画展の図録である。これは三百年という長い期間を通して日本の漫画の歴史を概観。子ども向け、大人向けという枠を超えて、漫画というジャンルの変遷を総体としてとらえようという試みである。カラー図版を中心にしたヴィジュアルな構成が、漫画の歴史を語るにふさわしい。研究書としても充分に通用する内容がもり込まれていると言ってよい。漫画の分野でユニークな活動を続ける川崎市民ミュージアムの長年にわたる資料収集と研究の成果のあらわれである。

【「日本児童文学」1996.11掲載】